事業承継を成功させる資金調達:後継者が活用できる補助金・融資制度
ローカルビジネス、特に中小零細企業において、事業承継は避けて通れない重要なプロセスです。長年培ってきた事業を引き継ぎ、新たな時代に対応していくためには、設備の改修、デジタル化の推進、運転資金の確保など、多岐にわたる資金が必要となる場面があります。しかし、事業承継を初めて経験される後継者の方にとって、どのような資金調達手段があり、どのように制度を活用すれば良いのか、不安を感じることも少なくないでしょう。
この記事では、事業承継を控える、あるいは既に行った後継者の方が活用できる可能性のある補助金・融資制度に焦点を当て、その概要や活用方法、申請の基本的な流れについて分かりやすく解説します。資金調達に関する不安を軽減し、事業承継を成功させるための一歩を踏み出すための具体的なヒントを提供できれば幸いです。
事業承継に伴う資金ニーズとは?
事業承継の局面で必要となる資金は、その状況や今後の経営戦略によってさまざまです。代表的な資金ニーズとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 株式・事業用資産の買取代金: 親族外承継やM&Aの場合に発生します。
- 設備投資: 老朽化した設備の更新や、新たなサービス導入のための改修、デジタル化投資などに必要です。旅館であれば、客室や共用スペースのリニューアル、予約システムや会計システムの導入などが考えられます。
- 運転資金: 事業を引き継いだ直後の資金繰り安定化や、新たな販路開拓、プロモーション強化に伴う費用などに充てられます。
- 後継者育成費用: 新たなスキル習得や研修参加にかかる費用です。
これらの資金を自己資金だけで賄うことが難しい場合、外部からの資金調達が必要となります。補助金や融資制度は、その有力な選択肢となり得ます。
事業承継で活用できる可能性のある補助金・融資制度
事業承継を支援するための様々な制度が国や自治体によって提供されています。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介します。ただし、制度の詳細は年度によって変更される可能性がありますので、最新情報は必ず公式サイトでご確認ください。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継やM&A(事業再編・事業統合等)を契機とした経営革新、事業転換、または廃業を支援する補助金です。後継者が新たな事業を始めたり、既存事業を刷新したりするための経費の一部を補助する枠(経営革新事業)などが設けられています。
- 概要: 事業承継やM&A後の新たな取り組みにかかる経費の一部を補助
- 対象者: 事業承継・M&Aを行った中小企業・小規模事業者等
- 目的: 後継者による新たな挑戦の促進、経営資源の有効活用
- 利用条件: 補助金の類型ごとに定められた要件を満たす必要があります。事業計画の策定や審査があります。
メリット: 返済不要の資金を得られるため、新たな投資に挑戦しやすくなります。 デメリット・注意点: 申請手続きに手間がかかり、採択率も100%ではありません。補助対象経費や金額に上限があります。
日本政策金融公庫の事業承継関連融資
日本政策金融公庫は、事業承継を円滑に進めるための様々な融資制度を提供しています。例えば、「事業承継・集約・活性化支援資金」などがあり、後継者が事業を引き継ぐ際に必要な設備資金や運転資金に利用できます。
- 概要: 事業承継に必要な資金を借り入れることができる融資制度
- 対象者: 事業承継を行う中小企業・小規模事業者等
- 目的: 円滑な事業承継の実現、承継後の事業安定・発展
- 利用条件: 日本政策金融公庫の審査基準を満たす必要があります。融資の種類によって、対象者や金利、返済期間などが異なります。
メリット: 長期かつ低利で借り入れられる場合があります。公的な金融機関のため、民間の金融機関よりも相談しやすい側面もあります。 デメリット・注意点: 借入であるため、当然ながら返済義務が発生します。審査があります。
その他の可能性のある制度
上記以外にも、事業承継と関連して活用できる制度はいくつか考えられます。
- ものづくり補助金: 新製品・サービス開発や生産プロセス改善のための設備投資などを支援。承継後の新たな事業展開に活用できる可能性があります。
- IT導入補助金: ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援。業務効率化や新たな顧客獲得のためのシステム導入に活用できます。旅館であれば、予約システム、顧客管理システム、多言語対応システムの導入などが考えられます。
- 自治体独自の補助金・融資制度: 各都道府県や市区町村が、地域の実情に応じた独自の補助金や融資制度を設けている場合があります。事業承継支援や特定の業種(観光業など)向けの制度があるか確認してみる価値があります。
これらの制度は、事業承継そのものを直接支援するものではありませんが、承継後の事業課題(生産性向上、集客強化など)を解決するための資金として活用できる可能性があります。
補助金・融資制度活用のステップ
初めて補助金や融資の申請を行う方にとって、そのプロセスは複雑に感じられるかもしれません。しかし、基本となるステップを理解しておけば、計画的に進めることができます。
ステップ1:情報収集と自己分析
まずは、どのような制度があるのか情報収集から始めます。国の機関(中小企業庁、日本政策金融公庫など)や、お近くの自治体のウェブサイト、商工会議所・商工会の情報などを確認しましょう。
同時に、自社の事業承継において「何に」「いくら」資金が必要なのか、資金の使い道や目的を明確にします。漠然とした資金ニーズではなく、具体的な事業計画と紐づけて考えることが重要です。
ステップ2:自社に合った制度の選定
収集した情報と自己分析の結果をもとに、最も自社の資金ニーズや目的に合致する制度を選定します。補助金なのか融資なのか、国の制度か自治体の制度か、対象となる経費は何かなどを比較検討します。
制度の対象者、要件、公募期間(補助金の場合)、金利、返済期間(融資の場合)などをよく確認しましょう。
ステップ3:事業計画の策定
多くの補助金や融資制度、特に事業承継関連の制度では、事業計画書の提出が求められます。事業計画書は、単なる資金使途の説明にとどまらず、「事業をどのように発展させていくのか」「資金を投入することでどのような効果が見込めるのか」を示す重要な書類です。
後継者としてのビジョン、事業の現状分析、課題、解決策、具体的な実施内容、スケジュール、資金計画、返済見込みなどを具体的に記述します。金融機関や審査員が納得できる、実現可能性の高い計画を練り上げることが成功の鍵となります。
ステップ4:申請書類の準備と提出
選定した制度の公募要領や申請ガイドラインに従い、必要書類を準備します。一般的に必要となる書類の例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 申請書
- 事業計画書
- 会社の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 直近数期分の決算書(貸借対照表、損益計算書、販売費及び一般管理費内訳、製造原価報告書など)
- 確定申告書の写し(個人事業主の場合)
- 見積書(設備投資などの場合)
- その他、制度ごとに求められる補足資料
書類に不備がないよう、丁寧に準備を進めることが重要です。提出方法(オンライン、郵送など)も確認し、期日までに提出します。
ステップ5:審査と採択・融資実行
提出された申請書類に基づき、審査が行われます。補助金の場合は書類審査や面接が行われ、採択の可否が決定されます。融資の場合は、書類審査に加え、面談が実施されることが一般的です。
無事採択・融資決定となった場合、交付決定通知や融資契約の手続きを経て、資金が交付または実行されます。
制度活用の注意点
補助金や融資制度は強力な味方となりますが、いくつかの注意点があります。
- 最新情報の確認: 制度の内容や要件、公募期間は変更されることがあります。必ず公式サイトで最新情報を確認してください。
- 申請準備の手間: 申請書類の準備には時間と労力がかかります。特に補助金は、公募期間が決まっているため、計画的に準備を進める必要があります。
- 必ずしも採択・融資されるわけではない: 補助金には予算の上限があり、申請しても採択されないことがあります。融資にも審査があり、必ずしも希望通りの条件で借りられるとは限りません。
- 補助金の「後払い」: 多くの補助金は、事業実施後に対象経費を支払った上で、実績報告を行い、それに基づいて補助金が支払われる「後払い」方式です。一時的に資金が必要になるため、自己資金やつなぎ融資で対応する必要があります。
- 融資の返済義務: 融資は借入金ですので、元本と利息を返済する義務があります。返済計画をしっかりと立てることが重要です。
まとめ:事業承継の資金調達は計画的に
事業承継を成功させるためには、資金面での準備が不可欠です。補助金や融資制度は、そのための強力な手段となり得ますが、制度によって目的、対象者、要件、メリット・デメリットが異なります。
まずは自社の資金ニーズを明確にし、どのような制度が活用できそうか情報収集を行うことから始めてください。そして、実現可能性の高い事業計画を策定し、丁寧な申請準備を進めることが重要です。
もし、どの制度を選べば良いか分からない、事業計画の策定に不安がある、といった場合は、専門家への相談も検討してみましょう。商工会議所・商工会、中小企業診断士、税理士などの専門家は、資金調達に関するアドバイスやサポートを提供してくれます。
この記事が、事業承継を担う皆様の資金調達への一歩を後押しできれば幸いです。正確な情報や申請手続きの詳細は、必ず各制度の公式サイトや公的機関にご確認ください。