財務体質強化・金融機関との関係構築:経営改善計画策定を後押しする資金調達
はじめに
ローカルビジネス、特に歴史のある事業を引き継がれた経営者の皆様の中には、「将来に向けて会社の財務体質を強くしたい」「金融機関ともっと良好な関係を築きたい」「漠然とした将来への不安を解消したい」といったお悩みをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。日々の事業運営に追われる中で、一歩立ち止まって将来を見据えた計画を立て、それを資金調達に繋げることは、容易ではないと感じるかもしれません。
しかし、経営改善計画は、単に業績の芳しくない会社が立て直しのために作るものだけではありません。事業の現状を客観的に分析し、目指すべき将来像を描き、そのための具体的な道筋を示すことは、企業の持続的な成長にとって非常に重要です。そして、この経営改善計画の策定は、実は資金調達をよりスムーズに進めるための強力な武器にもなります。
この記事では、経営改善計画の策定がなぜローカルビジネスの資金調達に役立つのか、計画策定を後押しする国の制度や、計画に基づいて資金を調達するための具体的なステップについて解説します。資金調達に対する不安を軽減し、貴社の経営強化に向けた一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。
経営改善計画とは?資金調達との関係性
経営改善計画の目的とメリット
経営改善計画とは、企業の現状を分析し、課題を明確にした上で、将来の目標を設定し、その目標達成に向けた具体的な行動計画と数値計画(売上目標、費用削減計画、資金繰り計画など)をまとめたものです。
この計画は、必ずしも赤字からの脱却だけを目的とするものではありません。事業承継を機に新たな成長戦略を描きたい、既存事業の強みをさらに伸ばしたい、変化の激しい時代に対応できる柔軟な経営体質を築きたい、といった前向きな目的で策定することも可能です。
経営改善計画を策定することには、いくつかの大きなメリットがあります。
- 課題と目標の明確化: 自社の「強み」と「弱み」を客観的に把握し、何を改善すべきか、どこを目指すべきかが明確になります。
- 社内の方向性統一: 経営者だけでなく、従業員とも計画を共有することで、組織全体の意識が統一され、目標達成に向けて一丸となって取り組む土壌が生まれます。
- 金融機関からの信頼向上: 計画性を持って経営に取り組んでいる姿勢を示すことは、金融機関からの信頼を得る上で非常に有利に働きます。後述するように、計画策定自体や、計画に基づく資金調達を支援する制度も存在します。
経営改善計画が資金調達に有利な理由
金融機関は、融資を行う際に「借りたお金がきちんと返済されるか」を最も重視します。経営改善計画は、この返済可能性を示す上で非常に説得力のある資料となります。
- 返済計画の具体性: 計画の中で、将来の収益見込みや資金繰り計画を示すことで、「いつまでに、どのように返済していくか」を具体的に説明できます。
- 資金使途の明確化: 調達した資金を何に使い、それがどのように事業の収益向上やコスト削減に繋がるのかを計画の中で明確に示すことができます。これにより、資金が有効活用されることを金融機関に理解してもらえます。
- 経営者の意欲と能力のアピール: 計画を自ら策定し、金融機関に説明する過程で、経営者の事業に対する理解度、将来へのビジョン、そして計画を実行する能力を示すことができます。これは金融機関にとって、非常に重要な評価ポイントとなります。
特に事業承継者の場合、金融機関との関係がゼロからのスタートというケースもあります。体系的な経営改善計画を提示することは、自身の経営能力と将来に対する真摯な姿勢を伝えるための効果的な手段となります。
経営改善計画策定を後押しする制度と資金調達の選択肢
経営改善計画の策定や、計画に基づく資金調達には、国の様々な支援制度や金融機関の融資制度を活用できる場合があります。
経営改善計画策定支援事業(通称:405事業)
これは、中小企業・小規模事業者が外部の専門家(税理士、中小企業診断士など)の支援を受けて経営改善計画を策定する際に、その計画策定費用の一部を国が補助する制度です。
- 対象者: 経営課題を抱える中小企業・小規模事業者。ただし、一定の要件(例えば、借入金の返済負担が大きいなど)がある場合があります。
- 目的: 専門家の知見を活用し、より実効性の高い経営改善計画の策定を促すこと。
- 補助内容: 計画策定費用およびフォローアップ費用の一部(通常は2/3程度)が補助されます。
- ポイント: この制度を利用して計画を策定することで、金融機関との連携が強化され、計画に基づく資金繰り支援(条件変更や新規融資など)を受けやすくなる可能性があります。計画策定の専門家を選ぶところからサポートを受けられる場合もあります。
最新の要件や詳細は、中小企業活性化協議会などの公式サイトでご確認ください。
経営改善計画に基づく融資制度
経営改善計画を策定した事業者向けに、金融機関や公的機関が特別な融資制度を設けている場合があります。
- 日本政策金融公庫の経営改善向け融資: 公庫では、様々な経営課題に対応するための融資制度を設けており、策定した経営改善計画に基づいて、事業の継続や発展に必要な設備投資資金や運転資金の融資を相談することが可能です。特定の経営改善の取り組み(例えば、新たな販路開拓、業務効率化など)を支援する融資制度もあります。
- 信用保証協会の経営改善支援保証制度: 金融機関からのプロパー融資(信用保証協会の保証なしの融資)が難しい場合でも、信用保証協会が保証を行うことで融資を受けやすくする制度です。経営改善計画の策定を要件とする保証制度もあり、計画の実行に必要な資金調達をサポートします。
- 地域金融機関独自の制度: お取引のある地方銀行や信用金庫、信用組合などが、地域の特性や事業者の状況に応じた経営支援融資や、経営改善計画策定を前提とした融資商品を提供している場合もあります。
これらの制度を利用する際は、策定した経営改善計画の内容を金融機関に丁寧に説明することが非常に重要です。計画の実現可能性や、資金調達の必要性・有効性をしっかりと伝える準備をしておきましょう。
経営改善計画策定から資金調達までの具体的なステップ
初めて経営改善計画を策定し、それを資金調達に繋げるための一般的なステップをご紹介します。
- 自社の現状分析と課題抽出: まずは、自社の財務状況(過去数年間の決算書、試算表)、売上動向、顧客層、競合、市場環境、組織体制などを多角的に分析します。強み、弱み、機会(チャンス)、脅威(リスク)を整理し、解決すべき経営課題を具体的に洗い出します。
- 経営改善計画の策定: 抽出した課題を踏まえ、将来のビジョンや目標を設定します。目標達成のための具体的な施策(例:新商品開発、販路開拓、コスト削減、設備投資、人材育成など)と、それらの施策を実行した場合の売上・利益計画、資金繰り計画などを数値で示します。専門家(税理士、中小企業診断士、金融機関など)の助言を得ながら進めることをお勧めします。前述の「経営改善計画策定支援事業」の活用も検討しましょう。
- 資金使途と必要額の明確化: 策定した経営改善計画を実行するために、いつ、どのような目的で、いくらの資金が必要となるかを具体的に算定します。設備投資なのか、運転資金なのか、それとも計画策定費用なのか、資金の使い道を明確にします。
- 利用可能な制度の検討と選択: 必要資金の使途や金額、自社の状況に合わせて、利用できそうな補助金や融資制度を検討します。この記事で紹介した経営改善計画関連の制度や、事業内容に応じた他の制度(設備投資補助金、販路開拓支援融資など)がないか情報収集します。
- 金融機関への相談と申請書類準備: 策定した経営改善計画、資金計画、そして申請したい制度について、お取引のある金融機関に相談します。金融機関から提出を求められる書類(決算書、事業計画書、資金繰り表、見積書など)を準備します。制度によっては、特定の申請書式や追加書類が必要となります。
- 申請と面談: 必要書類を揃えて金融機関に提出し、正式に申請します。金融機関の担当者との面談では、経営改善計画の内容、資金の必要性、返済見込みなどを説明します。熱意と計画の実現可能性をしっかりと伝えましょう。
- 実行後のモニタリングと計画の見直し: 無事、資金調達が成功した場合も、それで終わりではありません。策定した経営改善計画を着実に実行するとともに、定期的に計画の進捗状況や実績をモニタリングし、必要に応じて計画を見直すことが重要です。この過程で金融機関とのコミュニケーションを継続することで、より強固な信頼関係を築くことができます。
メリット、デメリット、そして注意点
メリット
- 計画に基づいた着実な資金活用: 計画があることで、資金の使い道が明確になり、より効果的な投資や経営改善に繋がります。
- 金融機関との信頼関係構築: 計画を提示し、実行することで、金融機関からの評価が高まり、将来的な資金調達もスムーズになる可能性が高まります。
- 外部支援の活用可能性: 経営改善計画策定支援事業などを活用することで、専門家の知見を得ながら計画を策定できます。
- 社内意識の向上: 計画を共有することで、従業員の主体性やモチベーション向上に繋がることが期待できます。
デメリット・注意点
- 計画策定の手間とコスト: 質の高い計画を策定するには、時間と労力がかかります。専門家に依頼する場合は費用も発生します(ただし補助制度がある場合も)。
- 必ずしも融資を受けられるとは限らない: 計画を策定しても、企業の財務状況や計画の内容、金融機関の判断によっては、希望通りの融資が受けられない可能性もあります。
- 計画通りの実行が難しい場合: 計画はあくまで予測に基づいたものです。市場の変化などにより、計画通りに事業が進まないリスクも考慮しておく必要があります。計画の定期的な見直しが重要です。
- 融資には返済義務がある: 融資で資金を調達した場合、当然ながら元本と利息の返済義務が発生します。計画の返済計画が現実的であるか慎重に検討が必要です。
経営改善計画は万能薬ではありませんが、資金調達をより成功に近づけ、事業を将来に向けて力強く進めるための有効なツールです。
まとめと次のステップ
ローカルビジネスの経営者にとって、経営改善計画の策定は、単なる業績回復のためだけでなく、財務体質の強化、金融機関との信頼関係構築、そして持続的な成長を実現するための重要なステップです。そして、この計画に基づいた資金調達は、計画の実行を後押しし、目標達成を加速させる力となります。
計画策定から資金調達までの道のりは、初めての場合特に不安を感じることもあるかもしれません。しかし、経営改善計画策定支援事業のような国の制度や、専門家のサポートを活用することで、その負担を軽減することが可能です。
この記事でご紹介した内容を参考に、まずは自社の現状と向き合い、将来どのような事業を目指したいのかを具体的に考えることから始めてみてください。そして、計画策定や資金調達の可能性について、お取引のある金融機関や地域の商工会議所、専門家などに相談してみることをお勧めします。
貴社の事業が、経営改善計画と資金調達の力を借りて、さらに発展していくことを応援しています。
※本記事で紹介した制度内容は一般的な情報に基づいています。最新の情報、制度の詳細、申請条件、利用可否については、必ず各制度の公式サイトや担当窓口でご確認ください。